The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 64



「クラウスさん、その話はやめてください。今、俺の頭の中に嫌な光景が浮かんでいます」

たまにイチャついている両親。

それを白い目で見る俺とトウコ。

「そうだな……あ、さん付けも敬語もいらんぞ。俺はそういうのが嫌いなんだ」

そういやフランクも呼び捨てだ。

「これで教師?」

「らしいぞ」

ほーん……

「その話もいいわい。で? 何を仕留めたんだ?」

クラウスがフランクに聞く。

「あ、熊。かなりでかいグリズリーだ」

「それはすげーな! さすがはヘーゲリヒのガキだ!」

「いや、俺じゃない。仕留めたのはそっちのバカップルの結晶」

殺すぞ、フランク……!

「お前か……確かに魔力はでかいな。長瀬のガキもラ……言っていいもんか?」

バカップルって言ってたくらいだし、母親のことも知ってるわな。

しかし、元教師なだけあって気遣いができてる……

「ダメー」

「そうか。しかし、グリズリーをねー……長瀬のガキもあのお姫様もそんなに強そうじゃなかったんだがなー……」

母さんはダメだけど、父さんはそこそこ強いぞ。

ってか、お姫様って……

母娘で同じあだ名がついてる……

「ラ?」

「スルーしとこ」

フランクが首を傾げると、セドリックが苦笑した。

「とにかく、熊を仕留めたから買い取ってくれ。フランクがあんたなら買ってくれるって言ってた」

「まあ、熊なら売れるから構わんが、とりあえず、見せてくれ」

「セドリックが持ってる」

「そうか……ここじゃなんだから中で出してくれ。来い」

クラウスはそう言って、建物の中に入っていったので俺達も続いた。

建物の中は普通にデスクが3つあるだけで普通の仕事場に見える。

というか、パソコンが置いてある……

「ここって工場じゃないの?」

「作業場は奥だ。いくらなんでも見せられねーよ」

あー……まあ、そうか。

「鍛冶が見たかったなー」

「多分、昔ながらの鍛冶職人を想像しているだろうが、現代はそうじゃねーよ。鍛冶に関する魔法も発展してるからもっと簡素だ。詳しく知りたかったらエンチャントの授業を受けろ」

エンチャント?

「何それ?」

「2年の授業だな。物に付与魔法をかけるやつだ。俺はその科目を担当していたんだよ」

なるほど。

確かに適任だ。

「受けてみようかなー」

「受けろ、受けろ。おもれーぞ。さて、セドリック、グリズリーを出してくれ」

「はいはい」

セドリックは頷くと、熊を出した。

すると、この場にはまったく似つかわしくない灰色の大きな熊が部屋に横たわる。

「こら、すげーな……よく仕留められるもんだぜ」

「しかも、ツカサは素手」

「危なげなく、一方的に仕留めてたね」

まあな。

「ほう……! それはたいしたもんだ。こいつを買い取ればいいんだな?」

「おねがーい」

「これだけ見事なら売れると思う。とはいえ、ちょっと時間をもらうぞ。色んなところに声をかけるから査定に時間がかかる」

まあ、それは仕方がないか。

「時間はいいけど、いくらくらいになんの?」

「ざっと30万……か? わかんね」

30万!?

「トライデント買えるかな?」

上機嫌でフランクを見る。

「買えん。ありゃ100万を超える」

100万!?

そりゃ父さんも買ってくれんわ。

「トライデントはよくわからんが、お前、武器はないのか?」

クラウスが聞いてくる。

「ない。皆持ってて羨ましい」

「へー……言えば作ってやるぞ。金はもらうがな」

「トライデント」

「100万持ってこい」

意味ねー……

「ねーよ。査定ってどれくらい?」

「んー? 1週間か2週間か。まあ、そんなところだな」

思ったより早いな。

「じゃあ、それで」

「わかった。連絡はどうすりゃいい? フランクに伝言を頼むか?」

うーん……

「クラウスってこっちの人?」

「いや、通いだ。ベルリンだな」

どこ?

いや、待て。

聞いたことあるぞ。

「ツカサ、ドイツの首都だ」

フランクが教えてくれる。

あ、そうだ。

ドイツを調べた時に書いてあったわ。

「家の知り合いって言ってたし、同郷か」

「そういうこと。俺もイルメラもベルリンだ」

へー……

「時差があるのに大変だなー」

「俺らは接客業じゃねーから大したことねーよ、今、出勤したところだし」

あ、だから外にいたのか……

「じゃあ、俺の携帯にかけてくれる?」

「いいぞ。電話番号を教えろ」

俺とクラウスが連絡先を交換する。

「じゃあ、査定が終わったら連絡する。あと、忠告してやると、儲かるからってこれに熱を入れるなよ。そうやって学業をおろそかにしてきた生徒を何人も見てきた」

さすがは元教師だ。

正直、俺はこれにハマりそうだった。

こんなに楽に30万も稼げるのはすごい。

もっとも、腕のことがあるからそうはならんが。

「わかった。気を付けるわ」

「そうしろ。じゃあ、帰れ。俺は仕事だ」

クラウスがそう言うので俺達は工房を出た。

「フランク、あいつって何歳だ?」

「50歳くらいだな」

50歳か……

「なんであんなムキムキなん?」

「職人って細いと舐められるんだとよ。お前、俺とセドリックが打った剣だったらどっちを買う?」

フランクにそう言われて、2人を見比べる。

フランクは体つきもしっかりしているから良い剣を打ちそうだ。

セドリックは……そもそも打てそうにない。

「なるほど。確かに……」

「そういうこった。帰ろうぜ」

フランクにそう言われたので歩いていく。

「ビギナーズラックってやつかね? いきなり熊に遭遇して30万か」

すごいわ。

何買おう?

「金額は決まったわけじゃねーけどな。あと、あれって運が良いって言うのか?」

「普通は悪いと思うよね」

「貯めてトライデントか好きなものを買うか……」

どうしようかねー?

「こいつって本当に俗っぽいよな」

「それがツカサの良いところだよ。見ていて楽しいじゃないか…………ものすごく不安になる時もあるけどね」

おい……

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