The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 63



視界が変わると、そこは建物の中であり、目の前にはフランクが立っていた。

「ここが工業区か?」

「合ってるぞ」

まあ、そう念じたわけだからな。

「お待たせ」

後ろから声がしたので振り向くと、セドリックも転移してきていた。

「よし、出るぞ」

フランクがそう言ったので建物の外に出ると、どうやら丘の上のようで町並みを見渡すことができた。

「すげー、商業区と全然違うな」

工業区は大きな工場みたいな建物や5階くらいの石造りのビルが並んでいた。

「工業区は商業区で売っている物を作ったり、研究したりするところだね。工業区って名前だけど、オフィス街って考えればいいよ」

セドリックが説明してくれる。

「学校を卒業して、ここで働く感じ?」

「そういう人もいるね。さっきのジョアン先輩を例にすると、錬金術の資格があれば、どっかで雇ってくれるよ」

なるほど……

「俺は?」

「実験台か警備員じゃない?」

実験台……

「戦闘職はそんなもんか……」

「給料は良いよ? まあ、君は良いところの子なんだからどうにかなるでしょ」

五本の指に入る名門の跡取りに言われるとちょっと嫌味だな……

まあ、それはそれで大変なんだろうけど。

「それで? 熊をどこで売るんだ? というか、売れるのか?」

「普通は解体屋に引き取ってもらうね」

「いきなり行って、買い取ってくれるの?」

「いいや」

セドリックが首を横に振る。

「ダメなん?」

「いきなり行っても無理だよ。昔は仲介業者もあったけど、悪徳すぎて取り締まりにあった。だから信用ある知り合いに引き取ってもらって、そこから各店に売ってもらう」

「そんなんいんの?」

「家には付き合いっていうものがあるからね。例えば、僕が羽織っているかなり高級な外套。これは昔から付き合いのある店のものなんだよ。ウチはそことしか取引しないし、そこからしか買わない。当然、店主とは何度も会ったことある。ほら? 信用ある知り合いだろ?」

ブルジョアめって思うのは俺だけか?

「外套屋が熊を買うの? 毛皮?」

「いや、買わないよ。お店の人も横の繋がりがあるから流してくれるわけ」

「なるほど……俺はそんな知り合いはいない!」

母さんか父さんに聞けば知ってるかもしれんが。

「もちろん、そういう生徒もいるよ。その時は先生に頼んだり、友人にでも頼めばいい」

「友人」

セドリックを指差す。

「そうそう。そういうこと。ただ、今回はあっちの友人だね」

セドリックがフランクを指差した。

「友人」

セドリックにつられるようにフランクを指差す。

「はいはい……セドリックはあくまで例に出しただけでそんな良いところが熊をもらっても困る。言い方は悪いが、こういうのはもっと下だな」

「わかる。ブルジョアって思ったもん。久しぶりにセドリックのいけ好かない感じがした」

ナチュラルに金持ちアピールをしてきた。

「確かにちょっと思ったな……とにかく、セドリックが言うような家の繋がりっていうのはウチにもある。そして、こういう熊はウチの方が良い」

「何の店?」

「鍛冶屋」

おー!

「武器作ってるところ?」

「そうそう」

かなり高級な外套屋よりかは良さそう。

「そういうわけで行こうか。あ、ツカサ、あそこに自動販売機があるよ。奢って」

ブルジョアのくせに……

「まあ、良かろう。俺が路頭に迷ったらこの日の感謝を忘れずに飯を奢れよ」

「そんな日が来ないことを願うね。ご飯と言わずに雇ってあげるよ」

持つべきものは友だな。

これで将来、ニートという選択肢はなくなった。

まあ、さすがに従兄のエリク君を頼るけども。

俺は約束通り、2人にジュースを奢ると、飲みながら丘を降り、工業区を歩いていく。

「あんまり人がいないな」

チラホラと大人を見るだけだ。

制服を着た生徒はいない。

「学生はあまりこの辺には来ないからね」

「ふーん……」

ちょっと場違いだなーと思って歩いていくと、フランクがとある工場らしき建物の前に立った。

「ここだ、ここ」

「工場か?」

「まあ、工房だけど、そんなところだな……えーっと」

「――あん!? フランクじゃねーか!」

怒鳴るような声が聞こえてきたので振り向くと、かなりごつい白髪のおっさんか爺さんが立っていた。

正直、年齢は想像がつかない。

白髪だし、顔にしわがあるから結構いっていると思うが、それ以上に筋肉がすごいのだ。

「あ、クラウス。あんたのところに行こうと思っていたんだ」

どうやらフランクの知り合いらしい。

というか、この人が鍛冶屋の人か?

確かにハンマーが似合いそうだ。

「まあ、そうだろうな。お前がここに来る用事はそんなものだろ。何だ? 武器でも欲しいのか? それともなんか仕留めたのか?」

「仕留めた方だ」

「ほーん……つーか、セドリックは知ってるが、そいつは誰だ?」

クラウスと呼ばれた男が俺を指差す。

「あ、クラスの友達。5月から入学したんだ」

「ふーん……おい、名前は?」

クラウスが聞いてきた。

「長瀬ツカサでーす。あ、長瀬が苗字」

「長瀬? どっかで聞いたような……」

おっ!

ついにウチの家も有名に?

「日本の名門です。まったく知られてないことで有名」

「いや、それ有名じゃねーし、名門か? 長瀬、長瀬……あ、なんかそんな名前の奴が昔、学園に通ってた気がするわ」

「そうなんですか?」

親戚かね?

「ツカサ、クラウスは昔、学校で教師をしていたこともあるんだ」

フランクが教えてくれる。

「へー……これが教師?」

小声でフランクに聞く。

「……これで教師」

フランクも小声で答えた。

「聞こえてんぞ、ガキ共……まあ、俺も教師に向いていたとは思ってないが……うーん、お前の親父の名前は何だ?」

「長瀬マコトですね」

「マコト……あー、あのバカップルの男の方」

バカップル……

嫌な予感がする。

「あ、その話はやめてください。親のそういうのとかマジで聞きたくないです。最悪なフレーズが聞こえてきました」

「確かに思春期の息子に言わん方がいいか……」

めっちゃ真面目な顔になった……

「そうですよ」

「俺なら親を殴るしな……」

そんなに!?

うわっ……ウチの親、マジできちー。

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