The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 96



ツカサ君はお腹が空いたと言って、校長室を出ていった。

この場には私と校長先生が残される。

「先生、いいんですか?」

「何がでしょう?」

校長先生はいつもの笑顔で聞き返してきた。

「もちろん、あの2人のことです。イヴェールの次期当主とラ・フォルジュの子ですよ? ラ・フォルジュのお婆様は将来的にツカサ君とトウコさんにエリクさんを託すつもりです」

あの3人は仲が良いらしいし、エリクさんは優秀な人だけど、長瀬の兄妹はそんなエリクさんに足りないものを持っている。

「そうですか。それは良いことですね。しかし、ツカサ君はまだ将来を決めていません」

「それはそうでしょうが、ツカサ君がどの道に行こうと、ラ・フォルジュは絶対に手放しません」

お婆様は末っ子のジゼルさんを一番可愛がっていたと聞く。

その子である長瀬の兄妹はお婆様にとって、それはそれは可愛いだろう。

しかも、2人共、魔力が高く、特にツカサ君は群を抜いている。

「それがあなたですか?」

確かにお婆様にめちゃくちゃ孫のアピールをされた。

なお、アピールポイントは魔力が高いことと素直で良い子だけだった。

それを言い方を変えて長々としゃべっていた。

他に褒めるところがないのだろうかと思った。

「否定はしませんが、候補は私だけでないでしょう。トウコさんはラ・フォルジュを名乗ってくれましたが、ツカサ君はまだ決めていません。とんでもないことをやらかす前に囲いたいのでしょう」

実際、ちょっとマズいことになりかけている。

「ツカサ君の性格的に余計なことをしない方が良いと思いますけどね。あの子は魔法使いになったばかりで魔法にそこまで思い入れもないし、執着していない」

「それはいずれ自覚するものです」

「どうでしょうかね? 持っている者は見ている世界が違います」

確かにあの子は嫉妬と無縁だろうな。

「校長先生、何故、あの2人はあんなに仲良くなったんです? イヴェールとラ・フォルジュですよ?」

「きっかけはツカサ君の学校案内を生徒会長であるシャルリーヌさんが務めたことですね。そこから仲良くなったようです。ツカサ君は明るいですから」

ツカサ君はイヴェールなんか知らないし、興味もなかった。

シャルリーヌさんは苗字が長瀬だったからラ・フォルジュと気付けなかった。

そして、気付いた時には引き返せなくなったわけだ。

それはさっきのシャルリーヌさんの目を見ればわかる。

あれは嫉妬の目だ。

「なんでそんなことを……」

頭が痛い……

ジゼルさんも大変だわ。

「急だったのでね。それに私は悪いこととは思いません」

「他国の者は他人事ですね。ラ・フォルジュとイヴェールは絶対に相容れません」

校長先生はドイツの方だ。

「それは知っていますが、そういうのを関係なく付き合えるのが学生です。実際、あなただってイヴェール派のクロエさんと親友だったではありませんか」

あれを親友と呼びたくないが、仲が良かったのは確かだ。

「私達は別にいいでしょう。違う派閥とはいえ、直接争う関係ではないのですから。ですが、イヴェールの次期当主とツカサ君は違います。非常にマズいです」

「まあ、いいではありませんか。それもまた勉強です。私はただただ生徒に後悔のない人生を歩んでほしいと願うだけです」

いや、不幸しか見えないですけど……

◆◇◆

俺は校長室を出ると、寮に戻った。

そして、フランクの部屋に向かう。

「おーい、フランクー、いるかー?」

『ちょっと待ってろー』

中から返事が聞こえてきたのでそのまま待つ。

しばらく待っていると、扉が開き、フランクが出てきた。

「わりい、わりい。剣のメンテをしてたんだ。何か用か?」

「昼飯食べようぜ」

「いや、もう食ったわ。おせーよ」

そうだろうなとは思っていた。

「1人で食うのも寂しいから一緒に食堂に行こうぜ」

「食ってるところを見ろってか? 嫌だわ……入れよ。俺はメンテをしているから勝手に食え」

フランクがそう言って部屋に入れてくれる。

何気に初めて入ったが、部屋の広さや間取りは俺の部屋と変わらない。

ただ、何もない俺の部屋とは違い、ベッドに机、さらには武器や防具がそこら中に置いてあった。

「部屋って入れてもらえないのかと思ったわ」

「あんまり入れねーな。なんかそんな空気なんだよ」

「ふーん」

「机を貸してやるから食えよ」

フランクにそう言われたので机につき、弁当を広げる。

フランクはベッドに腰かけ、剣を見始めた。

「セドリックは入れてくれそうにないな」

「多分、そうじゃね? 実際、俺も入ったことない」

「ちなみに、俺の部屋は入ってもいいぞ。何もねーけど」

机すらない。

「自分の家に帰っているんだもんな」

「まあなー。しかし、銃刀法違反の部屋だな」

「仕方がないだろ。武器は消耗品なんだから」

「そんなに消耗するか?」

「魔力を込めて威力を上げるんだが、壊れやすいんだよ。あと、どっかの誰かさんみたいに壊してくる奴もいる」

マチアスが弱かっただけだよ。

「ふーん……トライデント、ねーなー……」

弁当を食べながら再度、部屋を見渡すが、剣やハルバードはあるもののトライデントどころか槍もない。

「だから持ってねーよ。それよりも校長先生は何だったんだ?」

「ウォーレス先生が辞めたって話。それでバイト代も出ないってさ」

そういうことにしておこう。

「あー、飛んだか? まあ、ご愁傷様。そういうこともあるだろ。また熊でも狩りに行くか?」

「それそれ。その話をしに来たんだよ。もう森は飽きた。川に行こうぜ」

「川? なんでまた川なんだ?」

トウコがいないから。

「夏じゃん」

「相変わらず、お前の感性はわからんなー……まあ、森に飽きたのも確かだな。川のエリアもあるし、そこに行くか」

「セドリックは来るかな?」

「来るだろ。何もしないが、付き合いは良い奴だから」

確かにそれはそう。

「よし、後であいつも誘おう」

「いいんじゃね? ちなみにだけど、お前、トカゲとかの爬虫類は大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫」

「ワニも?」

ん?

「ワニが出るの?」

「川だし……」

トウコ、言えよ。

「多分、大丈夫。日本にワニはいないからわからんが……」

「ドイツにもいねーよ」

そうなんだ……

「まあ、大丈夫だろ。それに売れそう」

ワニ皮って高くないっけ?

「かもなー。じゃあ、土日にでも行ってみるか?」

「土曜はダメ」

「お前、いっつも土曜がダメだよな」

「家庭教師の先生との勉強会があるんだよ」

シャルリーヌ先生。

優しくて頭の良い先生だぞ。

たまに趣味に走るけど。

「そうなんか……まあ、良いことだな。じゃあ、日曜か」

「そうしようぜ…………フランク、それかっこいいな。貸してくれ」

フランクの持っている剣は輝いている。

「ダメ。部屋で振り回すな」

ちぇー。

「じゃあ、ハルバードでいいよ」

「お前、家庭教師の先生に『じゃあ』の意味を教えてもらってこい」

教えてくれるかね?

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