The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 85



扉を開け、中に入ると、かなりの広さの部屋であり、学校の教室くらいはあった。

正面の壁には机が並べられており、見たことのない器材が置かれている。

左右の壁には本棚があり、本が敷き詰められていた。

「へー……思ったよりちゃんと残ってるわね」

「ここが150年前かー」

シャルとアンディ先輩も部屋に入ってきて、見渡していく。

「ボロボロってことはなさそうね。私は先生を呼んでくるからちょっと待ってて」

扉の外から部屋の中を見たジョアン先輩がそう言って、来た道を引き返していった。

この場に残されたので空間魔法からバケツとぞうきんを取り出す。

しかし、シャルとアンディ先輩はそういった準備をせずに部屋の中を隅々と調べていた。

俺は何をしているんだろうと思い、シャルに近づく。

すると、シャルは机に人差し指をなぞらせ、その指をじーっと見ていた。

「シャル?」

「ん?」

シャルがこちらを見ずに器材をじーっと見る。

「何してんの?」

「ちょっとね……」

何だろうと思い、アンディ先輩の方を見ると、アンディ先輩は本棚をじーっと見ていた。

え? 何、この雰囲気?

掃除は?

「シャルリーヌさん、率直な意見を聞かせてほしい」

アンディ先輩が本棚から離れ、シャルに聞く。

「人が出入りしている形跡がありますね。部分的にホコリがないし、何より、空気がおかしい。明らかに換気されています」

「だね。本棚もいくつかの本を読んだ形跡があるよ」

あのー……

何の話をしているんだろうと思っていると、部屋にウォーレス先生が入ってきた。

「あ、先生」

そう言うと、シャルとアンディが先生を見る。

先生はそのまま扉を閉じた。

「思ったより綺麗だね」

先生が部屋を見渡す。

「先生、綺麗すぎます。ここ最近で誰かが入った可能性があります」

シャルが告げると、先生が顎に手を置き、考え始めた。

「先生?」

「……まあいいか。この部屋に誰かが入ったかだったね? それはそうだろう」

先生が頷く。

「先生ですね?」

シャルが先生を睨む。

「他にいるかね?」

「犯罪ですよ? 他人の魔法研究を盗むのは重罪です。それに地下の遺産を盗むなんて……」

「使わないんだから別にいいだろう。血統派の連中が譲るわけない。つまりこの地下にある大事な資料は永遠に眠ったままだ。それはこの世に存在しないと同義。とはいえ、それはもったいないだろう? だから私が有効活用する」

ダメなような……

「学校や運営委員会に通報します」

「さすがは生徒会長。真面目だね。でも、それは必要ないよ。すでに暗部は動いている」

先生はそう言って、アンディ先輩を見る。

「ウォーレス・ソーン。遺物窃盗罪及び情報漏洩の罪で逮捕する」

アンディ先輩がウォーレス先生を睨みながら告げた。

「え?」

「逮捕?」

俺とシャルがアンディ先輩を見る。

「すまない。僕はこの学校の生徒でもあるが、運営委員会に所属する暗部でもある。ウォーレス先生にはスパイ容疑があり、それの調査をしていたんだ」

スパイって?

「全然、ついていけませんけど?」

急展開すぎやしないか?

「長瀬君、まったく勉強していない生徒のために説明すると、アストラルにはこの町以外にも町がある。要は私はそこの人間であり、この町や学園の情報を秘密裏に流していたんだよ。それでスパイ」

ウォーレス先生が教えてくれる。

「あのー、町と町で争っているんですか?」

「表面上は仲良くしているさ。戦争はもうこりごりってね。でも、組織が違えば争いは起きる。人間なんてそんなものだよ。魔女狩りの時からまったく成長していない」

先生はそう言いながら首を横に振った。

「あ、はい……」

「ふぅ……君みたいな純粋な人間ばかりだと良いんだけどね。実際は私のような汚い人間の方が多い」

自分で言う?

その意識があるなら改心したら?

「ツカサをバカにしないでください」

シャルが杖を先生に向ける。

「え? バカにされてたん?」

「どう聞いてもそうよ」

えー……

「バカになんかしてないよ。というか、シャルリーヌ君も長瀬君と同じだね。純粋すぎて何も見えていない。君の場合は自分自身すらも見えていないね」

先生がそう言うと、シャルが眉をひそめた。

「先生、投降してください」

アンディ先輩がそう言って、俺達の前に出る。

「私が投降すると思っているのかね?」

「してもらいます」

「その程度の魔力だし、君は戦闘タイプではないだろう?」

「それは先生もでしょ?」

魔法は知らんが、どっちも弱そうだなー……

「先輩、援護します」

シャルも前に出た。

「シャルリーヌ君も戦闘タイプではないね。決闘を見させてもらったけど、粗末なものだった」

やっすい挑発だなー……

「イヴェールを舐めるな!」

しっかり挑発に乗ってしまうシャルであった……

「先生、1つ聞いても良いですか?」

一触即発の雰囲気だが、確認したいことがある。

「何かね、長瀬君?」

「シャルはイレギュラーだから置いておくとしても、アンディ先輩は暗部だとわかっていたんですよね?」

先生は最初からわかっている口ぶりだった。

「そうだね。自分を調査していることはわかっていた」

「それがわかっていて、ここに連れてきたのは?」

「もちろん、始末するためだよ。もうこの町での仕事も潮時だからね。アンディを始末し、最後にここの資料をもらって退散するよ」

なんとなくそうじゃないかなーとは思っていた。

「殺さなくても逃げればいいじゃないですか?」

「1つと言ったのに質問が多いね。逃げてもアンディは追ってくる。だから先に始末するんだ。学園の中なら他の暗部は入ってこない。多分、定期的に連絡を取っているんだろうが、他の暗部が気付く前に逃げられる」

なるほど。

「1つと言ったのに色々聞いてすみません。でも、聞きたいのは1つです。なんで俺をバイトに誘ったんです? 勝てると思ってんの?」

そう聞きつつ、魔力を体内に巡らせていく。

「素晴らしい魔力だよ、長瀬君。まさしくラ・フォルジュの最高傑作だ。私は妹の方のトウコ君も高く評価しているが、君はそれ以上だよ」

「どうも」

嬉しくないね。

「……え? ラ・フォルジュ?」

アンディ先輩が驚いた様子で俺を見てくる。

「アンディ……仕事熱心なのは良いことだが、周りもちゃんと見ろ。長瀬君とトウコ君は双子の兄妹だよ。どう見てもそっくりじゃないか」

「あー……ん? そうかな?」

アンディ先輩はピンと来てないようだ。

「まったく……不出来な生徒だ。さて、長瀬君。君の質問に答えようか。何故君を誘ったからだったね? 私はね、君が欲しいんだよ」

すんげーキモいんですけど……

「嫌でーす」

「そう言うなよ。君にも利点があるんだよ? もっとも、素直だったらの話だけど」

「利点って?」

「私が本当に所属している町の方が君を生かせる」

そう言われてもね。

「すみません。家族もいますし、友人もいるんで転校は嫌です」

「そうかい……まあ、君はそう言うと思っていたよ。だから無理やりにでも君の魔力をもらう」

魔力をもらう?

「どういうこと? 無理って聞いてますけど?」

校長先生もセドリックもそう言っていた。

「普通はね。でも、普通じゃないことをすればいい。ただそれだけさ」

「ウォーレス先生……禁止魔法の罪も追加します」

アンディ先輩が告げる。

「構わないよ。今さらどれだけ罪が増えても一緒だからな。さて、長瀬君、勧告だ。一緒に来てくれないか? 今ならシャルリーヌ君も一緒でもいいよ? じゃないとまとめて始末することになる」

まあ、そうなるわな。

「先生、質問に答えてくださいよ」

「ん? 答えただろ?」

「いえ……だから俺に勝てると思ってんの?」

舐めんな。

「ふふっ、それが厄介だね。君はそこの2人と違って完全な戦闘タイプの魔法使いだ。決闘を見ていたが、素晴らしかったよ」

「どうも……で?」

「普通にやったら勝てない。だから勝てるようにするんだ」

先生はそう言うと、何かを噛みしめた。

「ツカサ、禁止薬剤よ!」

「チッ! 強化剤か!」

シャルとアンディ先輩が先生に杖を向け、魔力を込める。

「やめなさい、不出来な生徒達。ここは室内だぞ? そんな魔法を使ったらどうなるのかを考えろ」

先生がそう言うと、2人の魔力が落ちていく。

それと同時に先生の魔力が爆発的に増えていった。

「ドーピング?」

「そう思ってくれていいよ」

ふーん……

「アンディ先輩、シャル。下がれ」

そう言って前に出る。

「ツカサ……」

「ツカサ君、悪いが、止めてくれ。援護をする」

2人は杖を構えたままだ。

「いらない。先生が言うように広いとはいえ、室内で魔法を使われても困るから下がっててください」

「長瀬君の言うとおりにした方が良いぞ。こういうのは専門の者に任せるべきだ」

うるせーなー……

挑発するなっての。

「すごい魔力ですね」

先生の魔力は俺よりも上だ。

「これが君が見ている世界かい? 羨ましくてたまらないよ」

「くだらない」

「それは持っている者の言葉だね」

別のものをたくさん持っている人に言われてもね。

「先生、もう一回聞きます…………その程度で勝てると思ってんの?」

「思っているとも。君の動きはこの前の決闘で見せてもらった。魔力もこちらが上だし、すぐに動けなくして魔力を頂くよ」

すげー舐められている……

「舐めんな」

そう言って、腰を落とした。

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