Chapter 83
木曜日は扉を開けることはできずに中を確認するのは断念し、日曜へと持ち越しとなった。
その翌日の金曜はシャルと相変わらず、難易度が高い呪学を受けた。
そして、土曜日。
この日は早朝に公園でシャルと武術の訓練をし、一度、解散すると、シャルの家に行き、勉強会が始まった。
午前中は基礎学を中心に今週の授業のおさらいをし、昼になったのでクロエが作ってくれた昼食を食べる。
「シャル、この前のポーションだけど、ソーダ味は美味かったわ。それにキャラメルマキアート味はトウコと母さんが絶賛してた」
「そう? ふふっ、自信作だからね!」
シャルがドヤ顔になる。
「うん、ありがとうね」
「いいの、いいの。今、ジンジャーエールとスポーツドリンク味を作り始めているわね。ちなみに、トウコさんは要望を出した?」
「あー、トウコは特にないけど、母さんが紅茶好きだからそっちでいいんじゃないかって……」
「お母さんが? 紅茶? 紅茶ねー……」
シャルが考え込む。
「紅茶は難しいの?」
「いや、紅茶は難しくない。ただ種類が多いでしょ? どれがいいのかなって……」
種類って言われてもな……
「母さん、バカ舌だから気にしないと思うぞ。納豆にマヨネーズをかける人だし」
ちょっと引いている。
ラーメンにもかけていた。
バカだと思う。
「え? 合うの?」
「知らない。でも、そういう人だから適当で良いと思う」
「へ、へー……じゃあ、作ってみるわ。あ、あのさ、良かったら明日もウチに来ない? 錬金術を見せてあげるわ」
錬金術を?
うーん、俺がわかるのかね?
あと、シャルの後ろにいるクロエが首を横に振ってる……
「気にはなるけど、明日はバイトが入っているんだよね」
「バイト? 始めたの?」
「いや、学園のバイト。シャルのところのウォーレス先生から掃除のバイトを頼まれたんだよ」
「ウォーレス先生から? へー……掃除って部屋の掃除? 先生の研究室って汚いものねー……まあ、私も似たような部屋だけど」
研究者って、皆、あんな感じなのかね?
「いや、地下にある昔の研究室の掃除。なんか許可を得たとかで掃除するんだってさ。それで俺とアンディ先輩とジョアン先輩が指名された」
「そうなんだ……地下ねぇ……」
「うん。シャルの錬金術は来週の日曜にでも見せてよ」
そう言うと、クロエがさっきよりも勢いよく、首を横に振る。
意図はわかっている。
絶対につまらないんだろう。
でも、シャルが嬉しそうなんだもん。
「そうしましょう!」
ほらー……
「う、うん。それにしても地下なんてあるのはびっくりしたわ。木曜に行ったんだけど、すごいね」
「私も話には聞いているけど、行ったことはないわね。どんな感じ?」
シャルも興味があるようだ。
「正直、不気味。あと石造りで古臭いね。実際、目的の部屋の前まで行ったんだけど、扉が錆びて開かなかった」
「錆び? まあ、古いしね」
「そうそう。それで結局、開かなくてジョアン先輩が扉を新品に戻すアイテムを作ってくるんだってさ」
「ん? 新品に戻す? はい?」
シャルが首を傾げる。
「何かそういうアイテムを研究しているらしいよ」
「いや、そんなことありえな…………電話ね」
シャルが言うように俺のスマホが鳴っている。
画面を見てみると、クラウスと表示されていた。
「あ、クラウスだ。出てもいい?」
「もちろんよ」
シャルが頷いたので通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。
『おーす、ツカサ! 元気か?』
「元気、元気。何か用?」
『お前が熊を売れって言ったんだろうが』
まあね。
「その件? 売れた?」
『それなんだが、ちょっと気になることがあってな』
ん?
「気になること?」
『イルメラが狩った熊は普通に売れた。42万マナだな』
おー!
すげー!
「そんなに高いんだ?」
『まあなー。それでお前さんの熊は12万マナだ』
ん?
「安くね? いや、十分に高いんだけどさ」
差が30万マナもあるぞ。
『それなんだがよー、お前さんが狩った熊は肉が腐ってんだと』
「腐る? いや、それはそうだろ。あれから何日経ってると思ってんだ」
『いや、アストラルの魔力を帯びた熊肉って珍味として売れるんだよ。だから俺もお前から受け取ってすぐに保存機に入れた』
「保存機? 何それ?」
冷蔵庫か?
『簡単に言えば、それに入れておけば、腐りにくくなるって魔道具だ。菌が増えるのを防ぐとかなんとか……詳しくは専門じゃないから知らん』
「便利だなー」
『まあな。それでそこに入れておいたんだが、腐っているらしい。少なくとも数日は経過しているんだとさ。お前、あれってそんなに前に狩ったやつなのか?』
「いや、その日のうちに狩ったやつだけど? というか、その日が初めて町の外に行った日だし」
間違えるわけがない。
『そうかー……変だなー。故障かと思ったが、イルメラの分はちゃんとできたんだよなー』
「うーん、まあ、仕方がないわ。12万マナでいいわ。学生には十分、大金だし」
トウコと分けても大金だ。
『そうか……悪いな。そういうことだからまた時間ができた時に金を受け取りに来てくれ』
「わかったー。ありがとうなー」
『はいよ。じゃあなー』
電話が切れた。
「どうかしたの?」
スマホを置くと、シャルが聞いてくる。
「いや、熊の肉が腐ってたみたいで値段が30万マナも落ちたみたい」
「腐ってた? 保存機は?」
「入れてたみたいだけど、腐ってたんだって。少なくとも数日は経過しているらしい」
「数日……?」
シャルが眉をひそめ、考え込み始めた。
「どうした?」
「ねえ、その熊って例のグリズリーよね? 先輩達が襲われているのを助けたってやつ」
「そうそう。イルメラが仕留めたのはちゃんとしてたって言うし、俺の攻撃で腐ったのかな?」
実は属性が腐食だったとか……
んなわけねーわ。
「ねえ、明日のバイトに私もついていってもいい?」
「え? バイトに? 来るの?」
「ええ。3人だと大変でしょう?」
どうかな?
まあ、先生も部屋の中の状況次第でもう少し人を呼ぶかもしれないとは言ってたけど……
「先輩や先生が何て言うかな……?」
「大丈夫、大丈夫。バイト代はいらないから。ちょっと私も地下に行ってみたいだけ」
まあ、シャルは生徒会長だし、大丈夫かな?
「じゃあ、行こうか。昼の1時にD校舎の掲示板の前だから」
「うんうん。じゃあ、その10分前に男子寮と女子寮の分岐点ね」
「わかったー」
「悪いわね。よし、午後からは呪学を中心におさらいしましょうか」
もう少し休憩しながらおしゃべりしたかったけど、やるかね……
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