The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 68



ジョアン先輩と別れた俺は丘を登っていき、男子寮に入る。

そして、2階に上がっていくと、休憩スペースに2人の男性がソファーに腰かけ、対面しているのが見えた。

その片方は制服を着ており、知っている人だった。

「アンディ先輩」

「ん? あー、ツカサ君。お出かけだったのかい?」

俺に気付いた先輩が笑顔で聞いてくる。

「はい。あ、さっきそこでジョアン先輩と会いましたよ」

「へー……あいつもお出かけかな?」

「多分、そうじゃないですかね? あの、こちらは?」

アンディ先輩と話している人が気になった。

何故ならこの人は見たことないのはもちろんだが、制服じゃないし、俺の父親よりも年上に見えるからだ。

具体的な年齢はわからないが、肌の質感やオールバックにしている金髪の後退具合から少なくとも、40歳は超えていると思う。

「あ、知らないの? 魔道具作りなんかの授業を担当しているウォーレス先生だよ」

あ、先生だった。

「先生、こんにちはー」

「はい、こんにちは。アンディ、ツカサと言ったが、この子か?」

ウォーレス先生は挨拶を返すと、アンディ先輩を見る。

「ええ。Dクラスの1年の長瀬ツカサ君です」

「ほう……それはちょうど良かった。長瀬君、かけなさい」

先生がアンディ先輩の横に手を差しだした。

「え? お話し中では?」

邪魔をしたらマズい。

「ちょっと君にも聞きたいんだ。もしかして用事でもあるのか? だったら日を改めるが……」

「いえ、大丈夫です」

「じゃあ、ちょっと時間をくれないかな?」

「わ、わかりました」

俺はちょっと緊張するなーと思いながらアンディ先輩の横に腰かける。

「君は5月に入学してきたんだったね。じゃあ、私のことを知らないのも無理はない。私はウォーレス・ソーンだ。Cクラス1年の担任であり、先程、アンディが言ったように魔導具関係の授業を受け持っている」

魔道具かー……ん?

「え? Cクラスの1年です?」

「そうだ」

えー……

「……なんかすみません」

「何故、謝る?」

だってぇー……

「先生、ツカサ君は例の派閥が気になるんだと思います。それとマチアス君の件」

まさしくそれ。

「あー……そういうことか。長瀬君、まず、これだけは伝えておくが、派閥なんかはあまり教師には関係がない」

え? そうなの?

「そうなんですか?」

「うむ。君の場合は親にでも聞けばわかると思うが、我々が若い頃は学園に派閥なんてものはなかった。君の親の世代もだろう。学園に派閥が持ち込まれたのはここ数年のことなんだよ。だから私を始めとする教師はほとんどがそういうことに関わり合いはないんだ」

「そうなんだ……」

というか、俺の両親を知ってるんだな。

卒業生っていうのはマジらしい。

「まあ、君のところのジェニー先生は完全な自由派だがね。これについては個人の思想だから何も言わないし、言うつもりもない。もちろん、生徒達もだ」

あ、ジェニー先生は自由派なんだ。

「知らなかったです」

「君はそうだろうね。だから別に私がCクラスの担任だからといって気にしなくていいよ。マチアスの件もさすがに差別的言動が度を越してたから緊急会議をし、無期限の停学を決定していたんだ。でも、その前にジャカールの家から自主退学の旨が伝わったんだよ」

あいつ、無期限の停学だったんか……

「そうですか……」

「うん。君は真面目に頑張っているようだし、このままここで学んでいってくれればいい」

嫌味でも言われるかと思ったけど、普通に良い先生だな、この人。

「頑張ります」

「うん。さて、それで話を聞きたいということなんだが、聞きたい内容というのは君達が湖の近くの森でグリズリーと遭遇した件についてなんだ」

あ、だからアンディ先輩と話していたのか。

「はい。何でしょう?」

「一応、確認だが、本当にグリズリーだったのか?」

「ええ。でっかい灰色の熊でした。工業区のクラウスという鍛冶屋さんのところに死体があります。あ、この学園の元教師だそうです」

「クラウス先生か……私が学園の生徒だった時の先生だな。そうか……」

先生が考え込む。

「あのー、どうしました?」

なんかマズかったかな?

「いや、アンディは魔物除けを持っていたのに襲われたのが気になってね」

そういやそんなことを言ってたな。

「壊れてたんじゃないんですか?」

壊れるという概念があるのかどうかは知らんが。

「いや、これは私が作ってアンディにあげたものなんだ。今、確認したところだが、別にそういうことはない」

先生は懐から護符みたいな紙を取り出して首を傾げた。

「あ、先生が作ったんですね」

「ああ。私はこういうものを作るのが専門なんだが、生徒達に配っていてね。君も欲しかったら言いなさい」

「逆に呼び寄せるのが欲しいです」

「呼び寄せる……ふむ、それは考えたことがなかったな。ちょっと待て……」

先生が考え込み始めた。

「先生、それは自分の研究室に戻ってゆっくりと。休みの日のツカサ君を引き止めているわけですし……」

先輩が俺達を無視して考え込み始めた先生を咎める。

「あー、そうだな。すまん、すまん」

「いえ……」

研究職ってこんな感じなのかね?

「それで魔物除けが効かなかったことが気になって、君達に話を聞いているんだよ。グリズリーに襲われた際に何か変わったことはなかったかい?」

「ありました?」

そのまま先輩に振る。

だって、襲われてたのは先輩2人だもん。

「いや……浅いところに出てきたなっていうくらいですね」

「ふーむ……そうか。時に長瀬君、君は戦闘タイプの魔法使いだね?」

先生が聞いてくる。

「はい。それしかできないもんで」

「これからもあの森に行く予定は?」

「ありますね」

来週の日曜にシャルと行く。

「そうか。だったら森でまた何かあったら知らせてほしい」

「それはもちろん報告しますけど、あんまりわかりませんよ?」

一回しか行ったことないし、違いなんかわからない。

「一人で行くのか?」

「いや、シャル……生徒会長と行きますね」

「ほう……ん? え? 生徒会長? イヴェールの?」

先生が呆ける。

「シャルリーヌ・イヴェールさんですね。今日、約束したんです」

「え? あ、いや、まあ、個人のことをとやかく言うつもりはないが……」

ああ……ウォーレス先生も俺がラ・フォルジュの人間であることを知っているんだな。

いや、両親のことを知っているんだからそりゃそうか。

「そうそう。個人です、個人。生徒会長は俺がここに入学する際に学園を案内してもらって、それからずっと親しくしてもらってます」

「そうか……いや、シャルリーヌ君が一緒ならむしろわかりやすいと思う。2人で何か気付いたことがあったら報告してほしい」

「わかりました」

そのくらいのことは当然するし、俺がしなくてもシャルがするだろう。

「話は以上だ。日曜なのに時間を取らせてすまない。アンディもありがとうな」

先生が俺とアンディ先輩に礼を言ってくる。

「いえ、もう帰るだけですし」

「僕もですよ」

「そうか……では、明日からも授業を頑張りなさい。私はこれで失礼する」

先生はそう言って、立ち上がると、階段を降りていった。

俺達は座ったまま先生を見送る。

「……先輩、ジョアン先輩と付き合ってるんです?」

「今、それを聞く!? タイミングがおかしくない!?」

ちょっと気になったもんで……

あと、絶対にシャルのことを聞いてくると思ったから先手を打った。

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